熊谷さとしのフィールドノート
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美香子さんとお婆ちゃん

 このところ、動機がわからない犯罪が多い。
「平和の像の折り鶴を燃やした」という事件(いたずら?)もわからない。
例えば、相手が憎いとか、保険金目当てとか、思想的、宗教的に許せない。というのならそれはそれで理解できる。 犯人の大学生も捕まってから理由を考えているという状態だ。 こういうのは器物破損なんていう罪名ではなく、もっと「人として…日本人として、文化破壊」といった問題だ。

 折り鶴と言えばこんな話がある。

 美香子さんのお婆ちゃんが、ついにボケてしまって入院した。 いつかこの日がくるものと覚悟はしていたが、大好きなお婆ちゃんだっただけに、 美香子さんにはショックだった。

 週末、お見舞いに行くためにしばらくぶりに里帰りする事にした。
お婆ちゃんのお見舞いに何を持っていこう?どうせ美香子さんを見ても、 自分の孫であることさえもわからなくなっているお婆ちゃんに何を持っていう…。
 郷里への電車の車窓からは、なつかしい山や川、田圃が見える。美香子さんは 自分の子供の頃を思い出し、優しかったお婆ちゃんのことを考えていた。 そして、美香子さんが小学生の頃、陽当たりのいい縁側でお婆ちゃんから折り紙を 教わったことを思い出した。「そうだ!お婆ちゃんに折り紙を折ってあげよう!」 そう決めて病院に出掛けた。

 やはりお婆ちゃんは美香子さんを見ても、軽く会釈をするだけで、自分の孫 であることがわからない。美香子さんは悲しくなり、涙が出るのを必死でこらえ ながら、お婆ちゃんから教わった折り紙を折った。
 折り鶴、ヤッコさん、紙風船……お婆ちゃんの手の上に折り鶴を乗せてやると、 お婆ちゃんはやさしくそっとふくらませながらこう言った。

美香子さんはお婆ちゃんのその言葉を聞いて「それでいい!それで充分だ」と 思った。美香子さんはお婆ちゃんの中で確かに生きている、小学生のままで…。
 これからはお婆ちゃんに教わった折り紙を、いつか生まれるだろう自分の子供、 そして孫に伝えていこうと思った。

 

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