熊谷さとしのフィールドノート
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野生動物用救急車の登場!

 福島県鳥獣保護センターに、野生動物のための救急車が配備された! もちろん日本初! 保護センターの獣医である溝口さんの手柄だ。

 1月26日に福島県庁の前で「出動式」が行われた。
 延々と挨拶が続いた後、この日のために編集した6分間のビデオが流され (「今!福島県内を1台の車が走る!」って感じのほとんど車のCMのようなやつ)
 ビデオ上映後、スクリーンが落とされた後ろに救急車が待っており、数メートル進 んで停車し、中からレスキュー隊の3人が降りてきて宣言文を読み上げる。
という手筈だったのだが、レスキュー隊が舞い上がっており スクリーンを踏んづけてしまい、溝口さんがあわてて大声でストップをかけ、 やっと止まった。というハプニングがあったそうだ。

 救急車のボンネットにはアニマルレスキューの真新しいエンブレムが貼られている。 これがまた実にセンスがいい!なぜなら俺がデザインしたからだ。

俺は以前の通信で、タマちゃんのことを取り上げて「野生動物サンダーバード」設 置の必要性を書いたが、いよいよ実現したというわけだ。
 これを喜ばずにいられようか! ってんで、さっそく大雪の中を福島に行って来た。
 救急車を見てみたい。ということもあったが、鳥獣保護センターに入院中の ハクチョウのことも詳しく知りたかったからだ。

 ニュースでも知っていると思うけれど、シベリアから渡ってきたハクチョウの1羽が 沖縄もう1羽が小笠原に、12月の台風で流されてしまった。
 沖縄に流されたハクチョウは、高温多湿の環境に耐えかねて器官にカビがはえてし まい残念ながら死んでしまった。
 そう、もともとハクチョウってのは寒冷地仕様にできている。
 小笠原に流されたもう1羽は、衰弱が激しく、体重も約半分の32キロになってい たという。
 この時の第一発見者の写真がおもしろく、海岸で途方に暮れているハクチョウの バックにサーファーが映っている。
この時点でハクチョウ救護に実績のある溝口さんに連絡があり、現地に適切な アドバイスをすることで、体重も44キロまで回復することが出来た。

 そこで野生復帰訓練のために、福島県鳥獣保護センターへの「命のリレー」とも 言うべき移送が始まる。
 まずは小笠原海運が名乗り出て船内の一室をハクチョウのために提供、竹芝桟橋 まで運ぶ。
 そこから今度は日通が名乗り出て、環境庁の役人が付き添い、福島まで東北自動車 道を運んできたのだ。
 この対応は快挙と呼んでいいだろう。時代は保護に追い風だ。

 今、その上品なハクチョウは(溝口さんに言わせると小笠原流だから上品なのだ そうだ……)福島にやって来て55キロまで体重が増えたので、現在はダイエット中 なのだ。
 金網をけっ飛ばしたり人をにらみつけたりと、いらいらしている。

 野生動物救護というのはケガが治った。とか衰弱している体が元に戻った。 というだけで完治ではない。
 ハクチョウのような渡り鳥は、体の中にリザーブがあり、土壇場になると予備タンクの コックが開くような仕組みになっている。だから飼育下でエサの心配がなくなると 食って体重は増えるのだが、今度は体が怠けてしまって予備タンクが働こうとしなくなる。  そうなってしまっては、いくら野生復帰させたとしても、どこぞで太ったまま のたれ死に することになるのだ。
 見た目のケガ、衰弱からの回復だけではなく、野生動物本来の機能回復までが 野生復帰訓練だということなのだ。

 こういった保護センターの実績、常に野生動物と同じ目線で治療してきたという努力が 「救急車配備」につながったのだ。

出陣式をマスコミ各社が大々的に取り上げたこともあって、翌日環境庁から 「うちでも救急車を配備したいと考えているから、救急車の仕様を教えろ」との電話が あった。という。
 「いかにも恥知らずの行政らしいや!」とヘドが出る話だ。

 福島県鳥獣保護センターに救急車が配備されるまでには、15年以上の溝口さんと スタッフの努力の積み重ねと、水も漏らさぬネットワークがあったのだ。
 アメリカのPAWS(全米鳥獣保護組織)との連携、岐阜大獣医学部に野生動物 専門病院を設置させ、血清さえ送れば即座に応えてくれるネットワーク作り、 福島県内の獣医師が持ち込まれた野生動物を診療した場合は、かかった費用を 獣医師会に請求し、プール金より支払われる。という診療体制が確立しているために、 運び込まれた野生動物はあちらこちらにたらい回しされることなく、どこの獣医に 運び込まれても応急処置は受けられるようになっている。
 その後、リハビリのために鳥獣保護センターに運ばれ、放獣される場所は野生動物が 生きていくのに充分事足りる山なのだ。 1000メートルまではキャンプ場などの 人間の施設があるが、それより上は人間が入れない。
 キャンプ場の周辺にも緑のコリドーが張り巡らされ、野生動物はキャンパーと 出会わないように自由に行き来できるように工夫されている。それらコリドーの低草木は 冬場の草食動物のエサにもなっており、わざわざ植林地まで行ってまずいスギや ヒノキの苗木を食べる必要はない。
 自動車道路を横切る場合はイヌ走りのついた横断トンネルが使えるし、阿武隈川に 放されたハクチョウは、電線にマーカーがついているから渡りの時にうっかり電線に ぶつかって羽が折れたりしない。
 これも溝口さんの指摘で東北電力が動いたのだ。

 そして何よりも県民の意識の高まり。 保護センターに運ばれてくる動物が増えたのはケガや病気が急に増えたのではなく、 「助けたい」と思う県民が増えたのだということ。それは確実に受け入れてくれる 保護センターがあるということなのだ。
 東京のように、ケガをした野生動物を見つけて電話してもあからさまに迷惑がられ、 電話をたらい回しされ、最初から同じ説明をさんざんしたあげくにやっとつながったのが 猟友会。なんてことはない。
 こうした実績の上に象徴として救急車があるのだ。
それを「救急車」だけ真似しようったってそうは行くもんか! いかにも行政の「仏作って魂入れず」精神そのものだ。
 受け入れる病院もなく、専門の医療体制もないまま救急車だけを配備してどうなるのだ? しかもこの時期だったから、救急車を購入するにはちょうどいい予算が余ったんだろーが!

 救急車の仕様に酸素ボンベも何もないと聞いて、環境庁の役人は小馬鹿にした そうだが、そんな仕様なんてのはどうだっていいのだ。
 ケガをした動物は段ボールで運ぶ。 後は消毒さえできればいい。ただし後ろのドアにもエアバックが装備されている。
 これこそ現場主義の装備なのだ。 つくづく鳥獣保護センターってのは「野戦病院」なんだなぁと思う。

 クリミア戦争の時、戦局が一番わかっていたのは本部でも現場でもなく、野戦病院 看護婦のナイチンゲールだった。というのがうなづける。

 大切なのは受け入れる側のソフトなのだ。ソフトあっての救急車というハードなのだよ。

 

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