熊谷さとしのフィールドノート
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緊急クマ問題

 連日、テレビをつければクマ射殺のニュースばかりで、胸が痛む。 10月7日の朝日新聞によると、クマによる被害は18県73人にも及ぶという。 発生件数が多いのは富山県で、18人が襲われ、すでに56頭のクマが射殺された。
 この数字を見ると、人間一人当たり3頭のクマが襲った計算になるが、これは 「予防のため」ということで、何もしていないクマも殺されている。ということを示している。

 実際にクマに傷害を受けた。という例もあるようだが、出会い頭にクマが立ち上がった だけなのを「襲われた!」(実はクマだって驚いているのだ)という例もあるだろうし、 傷害はなくても近隣を徘徊していた。とか、庭木を食べていた。というのもあるだろうと思われる。

「ガラスを破って老人ホームに侵入!」という事件も、いかにもクマが凶暴であるかのように 報道されてはいるが、そもそもクマはガラスを知らない。 奴らは目が悪いから、ガラスがあるなんて知らずに飛び込んだのだろう。 あるいはガラスに自分の姿が映り、敵だと思って突進したのか。飛び込んだ先がたまたま、 老人ホームだったのだ。
 いずれにしてもクマが確信犯的に「老人ホームと知ったクマが、バールのようなもので ガラスをたたき壊して侵入、片っ端から老人たちを襲った」ということでは決してない。
 東北地方でもクマ被害が報告されているが、俺が調べたところによると、例年よりもむしろ 目撃や被害は、少ないとの報告だったので、マスコミが少々騒ぎすぎではないか?と思う。

 いくらツキノワグマが、北海道にいるヒグマとは違い、果実食、植物食で意外に臆病 (臆病だからこそ出会い頭にパニックになり、思わず襲ってしまうことがあるのだ) ふだんは人間を見かけると自分の方から避ける動物。とは言っても、地元の人たちにとっては 「脱獄した凶悪犯が、近所をうろついている」というのと同じで、おちおち眠れなかったのだろうし、 子どもを登校させる親たちは心配だったに違いない。

   IUCN(国際自然保護連合)が出しているレッドデーターブック(RDB)では、ツキノワグマは、 絶滅危惧種?類(E? )というカテゴリーに分類されている。 これは「絶滅の危険が増大している種」ということだ。

 環境省が示す「レッドデーターブック(JRDB)」では、5番目「Lp」のカテゴリーに位置づけ られている。これは「消滅が心配されるため、保護に留意すべき地域個体群」というランクになる。 この地域というのは、「下北半島、紀伊半島、東中国地域、西中国地域、四国山地、九州の 地域に関しては、生息地が分断していますので保護しなければなりませんよ。」ということなのだ。

 地域個体群が生息し続けるには、最低でも250頭前後は必要と言われている。 それ以下だと近親交配などが進み、遺伝的に体の弱い個体が生まれ、絶滅に拍車が かかってしまうと考えられている。
 にもかかわらず、狩猟獣あるいは有害駆除対象として、毎年1500〜2500頭捕獲されている わけだ。(この数字は「捕獲」であって、必ずしも全部殺されているわけではないよね。と信じたい)

 レッドデーターブックは、都道府県単位でも出しており、今年一番殺された富山県では ツキノワグマはリストに載っていない。
 これは、北アルプスを有する富山県は自然が豊かであり、県をまたがった広い地域に ツキノワグマが多数生息しているから、絶滅の心配がない。ということなのだ。

   鳥獣保護法(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律)関連の許認可は、都道府県に 任されている。クマ問題が発生し、クマを狩猟(捕獲・殺処分)する場合、都道府県の担当部署が 判断し、許可を出すのは都道府県知事なのだ。また、クマ対策を行うのもこの部署である。
 そういう意味でも今回の富山県では、どうやら安心して?殺されてしまったようだ。

 では、被害(里にクマが下りてくる)急増の原因だが、今年の猛暑や富山県、福井県を直撃した 台風被害で、ブナの実などの食べ物のなりが悪かったのでは?と言われている。
 他にクマが里に下りてくる原因としては、なわばりの領域が開発(林道で分断される) など、何らかの理由で人里にシフトしてしまった。ということもあるようだが、ほとんどが 人間の出すゴミや、果樹園といったエサを目当に下りてくる。

 今年の富山県の場合は、昔はクマの住んでいるエリアと人間が住んでいるエリアとの 緩衝地帯である里山が荒れてしまったから。という大きな原因があるようだ。
 どういうことかというと、山の中に住んでいるクマの目線で考えてみるとよくわかる。 クマが、山の中を徘徊しながら里山と山との境界に来たとき、畑には人間がいたし、子どもの 声も聞こえたろう。昔はそこでクマは引き返したのだ。
野生動物はなぜか子どもの声が嫌いだ。甲高いからだろうか?

 今は里山の木々や畑はほったらかしだから、境界がわからなくなってしまったのだ。 それに里山を開発して、山際まで住宅が建って入るという場合もあろう。
 過疎の村では廃屋も目立つ。建物には誰も住んでいなくても、庭木はそのままにしてあるから 毎年実をつける。そうした村は高齢者しかいないから、実を収穫するという労働力もないため、 ほったらかしだ。そうした場所は、クマの日常的なエサ場になる。
 クマにとっては廃屋の庭木なのか、現在も人が住んでいる家の庭木なのかはわからない。

いつものように、「結局、里山が荒れているからだ・・・」という話しになってしまったが、更に続ける。
 そもそも、なぜ日本の国には漁村でも山村でも、どこに行っても柿の木が多いのだろう。 それは食用ばかりではない。それならば「甘柿」だけでいいはずだからだ。
 柿の木の一番の目的は、「柿渋」を採取するためであった。 昔、柿渋は「防腐剤」であり「防水剤」であったから、漁村では漁網に塗った。
 番傘、渋うちわ、渋行李、油紙に柿渋を塗り、雨合羽にした。
 柿渋は実が青いうちに収穫して加工するから、昔の里山には真っ赤な柿の実がたわわに実る。 という風景は現在よりも少なかっただろう。と思われる。

 クマのエリアと人間のエリアの境界がはっきりしており、柿渋採取のために収穫された 柿の木には、実もそれほどなっておらず、それに柿が熟す季節は「村祭り」の時期でもあったはずだ。 数日前から若者たちは鎮守の森の境内で、笛、太鼓の練習をしていたろうし、子どもたちは、 そんな大人たちに「こら!邪魔だ」などと言われながらも、非日常がうれしくて元気に 走り回っていたに違いない・・・。
 さすがにこれじゃぁ、クマも里には出てこれまい。

 人間が人間の生活をしていた。だからクマとの共生、調和ができていたのだ。 今は、人間が人間の生活をしていない。だからクマも「だったらいいじゃん!」ということで 里に下りてくるのだろう。
 それなのに、出てきただけで撃ち殺されたらたまらない。

次回は、今回のドングリ騒動の是非と、クマ捕獲後「奥山放獣」の話をする。

 

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