福島県鳥獣保護センターにおける救護活動の目的は、ケガや病気の野生動物を治療し、野生に復帰させる活動を通じて、「人と野生動物の共生」を図り、また「生物多様性」を保全することだ。
福島県鳥獣保護センターには、野生動物のための救急車が配備されている。もちろん日本初!
保護センターの獣医である俺のもう一人の義兄、溝口さんの手柄だ。
救急車のボンネットにはアニマルレスキューのエンブレムが貼られている。これがまた実にセンスがいい!
なぜならば俺がデザインしたからだ。
この話題は、マスコミ各社が大々的に取り上げたこともあって、翌日環境省から「うちでも救急車を配備したいと考えているから、救急車の仕様を教えろ」との電話があったという・・・
「ヘッ!いかにも恥知らずの行政らしいや!」と、ヘドの出る話だ。
救急車が配備されるようになるまでには、溝口さんとスタッフによる15年以上もの努力の積み重ねと、水も漏らさぬネットワークがあってのことなのだ。
アメリカのPAWS(全米鳥獣保護組織)との連携、岐阜大獣医学部に野生動物専門病院を設置させ、血清さえ送れば即座に応えてくれるネットワーク作り、福島県内の獣医師が持ち込まれた野生動物を診療した場合は、かかった費用を獣医師会に請求しプール金より支払われる。という診療体制が確立している。
そのために、運び込まれた野生動物はあちらこちらにたらい回しされることなく、どこの動物病院に運び込まれても、応急処置だけは受けられるようになっている。
その後鳥獣保護センターに運ばれ、治療、リハビリを経て放獣される。
放獣される場所は、野生動物が生きていくのに充分事足りる山なのだ。
1000メートルまではキャンプ場などの人間の施設があるが、それより上は人間が入れない。
キャンプ場の周辺にも緑のコリドー(回廊)が張り巡らされ、野生動物はキャンパーと出会わないように自由に行き来できるように工夫されている。
それらコリドーの低草木は冬場の草食動物のエサにもなっており、カモシカは植林地まで行って、わざわざまずいスギやヒノキの幼木を食べる必要はない。
自動車道路を横切る場合はイヌ走りのついた横断トンネルが使えるし、阿武隈川に放されたハクチョウは、電線にマーカーがついているから渡りの時にうっかり電線にぶつかって羽が折れたりしない。
これも溝口さんの指摘で東北電力が動いたのだ。
そして何よりも県民の意識の高まり。
保護センターに運ばれてくる動物が増えたのはケガや病気が急に増えたのではなく、「助けたい」と思う県民が増えたのだということ。
それは確実に受け入れてくれる保護センターがあるから、ということなのだ。
こうした実績の上に象徴として救急車があるのだ。
他の地域のように、ケガをした野生動物を見つけて電話してもあからさまに迷惑がられ、電話をたらい回しされ、最初から同じ説明をさんざんしたあげくにやっと紹介されたのが猟友会。
なんてことはない。一度でもこのような経験があると、例え「助けたい」という気持ちがあっても、ケガをした野生動物は見て見ぬふりをする方が賢い、と思ってしまう。
それを「救急車」だけ真似しようったってそうは行くもんか!
いかにも行政の「仏作って魂入れず」精神そのものだ。
受け入れる病院もなく、専門の医療体制もないまま救急車だけを配備してどうなるのだ?
全くどこに向けて「自然保護」をやっているのだ?!
本当に心から欲しいと思ったのか? おそらく時期的に救急車を購入するにはちょうどいい額の予算が余ったんだろーが。
救急車の仕様に酸素ボンベも何もないと聞いて、環境庁の人間は小馬鹿にしたそうだが、そんな仕様なんてのはどうだっていいのだ。
ケガをした動物は段ボールで運ぶ。後は車内を消毒さえできればいい。
ただし、後ろのドアにもエアバックが装備されている。
これこそ現場主義の装備なのだ。
つくづく鳥獣保護センターってのは「野戦病院」なんだなぁと思う。
クリミア戦争の時、戦局を一番わかっていたのは本部でも現場でもなく、野戦病院看護婦長のナイチンゲールだった、というのがうなづける。
大切なのは受け入れる側のソフトなのだ。ソフトあっての、救急車というハードなのだよ。


